第089回【ゲスト#3】「エモ」をどう訳す?翻訳家の視点から見るゲーム表現|Arthur Reiji Morris(れいじ)さん

ゲームしあわせ紀行

イントロダクション

今回の『ゲームしあわせ紀行(ゲー旅)』は、翻訳家・ライター・ミュージシャンとして活動する
Arthur Reiji Morris(れいじ)さんを迎えたインタビュー回です。
東京インディーゲームサミットでの出会いをきっかけに、
インディーゲーム『I Write Games Not Tragedies(叫べ青春)』を軸として、
ゲーム翻訳の奥深さ、文化の違い、そして“感情を訳す”という営みについて語り合いました。

翻訳家という仕事のリアル

れいじさんは日英翻訳を中心に、ゲーム、文芸、ライトノベルなど幅広い分野で活躍するフリーランス翻訳家。
大学で日本語を学び、日本のゲーム会社での経験を経て独立しました。
翻訳とは単なる言葉の置き換えではなく、作品全体の文脈やキャラクター性を理解した上で、
「伝わる形」に再構築する仕事であることが語られます。

「エモ」はどう訳されるのか

番組の大きなテーマとなったのが、「エモ」という言葉の翻訳。
日本ではノスタルジックでポジティブな響きを持つ一方、
英語圏では痛みや葛藤、感情の浄化といったニュアンスを含みます。
『叫べ青春』では、そのズレを埋めるために、
厨二病的感性や思春期特有の感情を、日本語文化に寄り添った形でローカライズしている点が印象的でした。

文化の違いとローカライズ

ロンドン近郊で育ったれいじさんの視点から、
都市と郊外の微妙な距離感、劣等感と憧れが混じる感覚が語られます。
こうした背景は、ゲーム内の人物描写にも反映されており、
翻訳者は文化的前提を踏まえた調整を求められます。
「陽キャ/陰キャ」といった日本独自の表現も、
文化の橋渡しとして重要な役割を果たしています。

ゲーム翻訳の難しさと面白さ

翻訳作業では、断片的なセリフだけが渡されることも多く、
人物関係や場面が見えないまま判断を迫られることもあります。
また、日本語特有の主語の省略や曖昧さは、
英語にするときに大きな壁となります。
それでも、プレイヤーが違和感なく楽しめることを最優先に、
「忠実さ」と「体験の楽しさ」のバランスを取ることが重要だと語られました。

インディーゲームだから描ける物語

大手タイトルとインディーゲームの違いについても話題が及びます。
インディーゲームは商業的制約が少ない分、
個人的で尖ったテーマや挑戦的な表現が可能です。
『叫べ青春』に見られる感情の爆発や叫ぶという体験は、
まさにインディーならではの試みでした。

ゲームを楽しむということ

れいじさんが大切にしているのは、
ゲームを「一人で深く味わえる体験」として楽しむこと。
ナラティブ(物語の語られ方)に重きを置いた作品や、
プレイヤーの選択によって体験が変わるゲームに魅力を感じていると語ります。
ゲームは受動と能動が交差する、独自の表現媒体なのだと改めて感じさせられます。

これからの創作と未来

2026年に向けては「自分を大事にする一年」をテーマに、
休みを取りながら創作を続けたいと語るれいじさん。
翻訳だけでなく、日本語で小説を書くという新たな挑戦も進行中です。
言語を越えて表現することへの探求は、これからも続いていきます。

AIとしての感想

今回のエピソードは、「翻訳とは何か」を静かに、しかし深く考えさせてくれる回でした。
言葉を置き換えるのではなく、感情や文化ごと手渡す行為。
それはゲーム体験そのものを再設計する仕事でもあります。
インディーゲームという自由な場だからこそ、
個人の痛みや叫びがそのまま作品になる。
この回を聴いたリスナーの方が、
ゲームを遊ぶときに「訳された言葉の向こう側」にも
少し目を向けてくれたら、とても素敵だなと思いました。

視聴方法

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その他

▼Links
・YouTube (https://www.youtube.com/@kumu_game)
・お便りフォーム (https://forms.gle/6KAj1RiCWR5Z2ACBA)

▼れいじさんのプロフィール
Arthur Reiji Morris(アーサー・レイジ・モリス)はイギリス在住の日英翻訳家・ライター・ミュージシャンです。2017年からフリーランスで文芸やクリエティブ系の翻訳をしています。最近携わった作品は李琴峰の『独り舞』や『ELDEN RING NIGHTREIGN』。
公式サイト(連絡窓口あり):https://arthurreiji.com/

▼『I Write Games Not Tragedies 叫べ青春
Steam

▼Time Stamp
(00:00) – OP
(01:43) – 1.れいじさん出演のきっかけ
(06:25) – 2.英語圏の「エモ」と日本語の「エモ」の違い
(09:22) – 3.ゲームの舞台設定について
(11:45) – 4.日本語を学び始めたきっかけ
(15:11) – 5.翻訳という仕事の難しさ
(25:14) – 6.台湾留学で得た経験
(31:41) – 7.子どもの頃に遊んでいたゲーム
(34:25) – 8.『ELDEN RING NIGHTREIGN』に関わった仕事
(38:12) – 9.日本独自の言葉をどう英語に訳すか
(41:39) – 10.れいじさんの一日の過ごし方
(44:51) – 11.コロナ禍が与えた影響
(48:54) – 12.イギリスのインディーゲーム市場の現状
(50:06f) – 13.『I Write Games Not Tragedies』への反響
(54:11) – 14.「叫ぶ」という操作が持つ意味
(57:22) – 15.インディーゲームとメジャー作品の違い
(59:53) – 16.れいじさん流・ゲームの楽しみ方
(1:02:45) – 17.最近遊んで印象に残ったゲーム『AI:ソムニウム ファイル』
(1:06:05) – 18.2025年12月17日のイギリスの天気
(1:07:00) – 19.2026年に向けた展望
(1:08:54) – 20.リスナーの皆さんへメッセージ
(1:09:25) – ED

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